カミカワークプロデューサーダイアリー
廃校で「幸せな三角関係」をつくる、教育に真っすぐな館長
2025.4.7 UP
はじめまして! KAMIKAWORKプロデューサーのインターンシップを体験した髙橋寛道です。
今回私は、廃校をリノベーションした体験型複合施設「大雪かみかわヌクモ」の館長・松井丈夫さんを2週間追いかけました。デジタルと自然を融合させた教育を追求する活動や、それを可能にする上川町の魅力をお伝えします!
松井さんってなにしている人?

大雪かみかわヌクモの館長である傍ら、教育者としてもその才能を発揮する松井さん。多岐に渡ってその活動を展開しています。
まずは、ヌクモ館長としての仕事。
複合施設ということもあり、その業務内容は様々あります。ヌクモは主にカフェスペース、フリースペース(遊び場)、プレイルーム(プログラミング体験)という3つの要素で構成されています。
松井さんは時にはカフェの店員として珈琲を淹れたり、またある時にはチームラボがプロデュースするプログラミング体験のファシリテーターをしたり。
それだけに留まらず、教育分野においてはプログラミングを通じた楽しく学べる教材を展開しています。最近では週に一度行われる塾の運営もその活動の一つに。
eラーニングを用いて行われていて、27,000問の問題を自習形式で生徒が解き、管理画面を通じて進捗を確認、時には苦手分野の問題を不意に投げかけるというものです。
松井さんってなにしてきた人?
数学教諭の父を持つ松井さん。
転勤族ゆえに、主に上川管内のいくつかの地域で暮らしました。小中学校時代は自然遊びや、父親の使っていたワープロなどの機械に興味を抱いていたそうです。幼少期からの父親譲りな性格もあり、自然と理数の道を選択するようになりました。道内の千歳科学技術大学へ進学。大学時代、千歳の小中学校で理科の授業・総合的な学習の時間などを通し、様々なことを学ぶなかで、とあることに興味を持ち始めます。
「幼児教育に脳科学を取り入れたらかなり効果があるのではないか」
千歳科学技術大学を卒業後、保育教諭の資格を取得し、地元で保育教諭として働き始め、今では教育の道を歩んで16年の月日が経ったといいます。
大学の先生からは「幼児教育の先生になった卒業生って初めてじゃないかな?」と驚かれながらの就職だったとか。
夢のある施設「ヌクモ」との出会い

2019年7月13日にオープンした、未来型公民館とも言えるヌクモ。この施設は、松井さんが憧れる『チームラボ』が設計から携わってできた夢のある施設でした。
当時は保育教諭として勤めていた松井さん。この施設を知った次の日には足を運んだといいます。
そもそも教育領域に心血を注ぐ松井さんにとって、保育教諭になること自体がゴールではありませんでした。青い炎を灯しながら、ヌクモに向かいました。最先端を取り入れたこの場所は、松井さんにとっての終着点ともいえる魅力的な空間でした。父親の転勤で過去に5年ほど上川町に住んでいたという運命的な部分も後押しとなり、その気持ちはすぐに確信に変わります。
この出会いが、松井さんの大きな転機に。KAMIKAWORKプロデューサー(地域おこし協力隊)の経歴を経て、この地で念願の再会を果たすのでした。
上川でしかできないデジタル教育

念願の地での仕事。具体的にどんなことをしているのか聞いてところ、松井さんが開口一番「こだわっている」と口にしたのは、少し意外なことでした。
インタビュー中に彼が向き合っていたのは、まさかのトイレ。「一番汚くなるところを一番綺麗にしたらお客さんも気持ちよく使ってくれる」。
誰もが嫌がる仕事を率先して行う姿勢に彼の熱心な性格が伺えました。
松井さんの本筋とも言える、デジタル教育に関する仕事のことも聞いてみました。
取材当時は「Scratch」「教育版マインクラフト」「VIVIWARECell」「あそぶ!天才プログラミング(お絵かきピープル)」「eスポーツ」など多岐にわたります。
実際にこれらで自ら遊んでみて、それを踏まえ、年齢・地域に合わせた学習コンテンツを子ども達に楽しんでもらっています。
一例がマインクラフトです。簡単に言うと、オンライン上のブロック遊びのようなゲームですが、意外にも想像以上のクオリティで創作できてしまうことから世界的に人気を博しています。
そこで上川町の特性にちなんだ取り組み「氷瀑まつりを再現しよう!!」という試みを行ったそう。
このチャレンジは観光協会の方から「来年度アイディアをカタチにしませんか?」と言われるという結果に。嬉しすぎる展開となりました!
他には、大人でも楽しめるeスポーツチームの結成企画も展開したり、VIVIWARECellというプロトタイピングツールでLEDを光らせて遊んだりと、「上川町でしか味わえないデジタル教育」を考えてきました。その取り組みはもう3年目に入りました。
ちなみに、チームラボが提供するプログラミング体験「あそぶ!天才プログラミング」ができるのは全国でここだけだとか。
「誰にとってもWin-Win」という館長の視点
たくさんの魅力が詰まったヌクモ。誰よりもこの場所を知る館長ならではの視点を伺いました。
特に強く感じたのは、「誰にとってもWin-Winとなる環境を大事にしている」ということ。それを実現させるポイントの多くが込められてるように感じます。
まず、子育てに力が入りすぎると親御さんも疲れちゃうから、子供だけでなく親も共にリフレッシュしてほしいということ。
それを体現するように、ヌクモではシームレスな空間が一面に広がっています。
この建物には、大人がくつろぐカフェスペースと子どもが楽しむフリースペースに目線を遮る隔たりはありません。
我々大人側のみならず、こうして互いに存在を認識しあえる距離感は、子どもにとっても安心感に繋がるのだなと感じました。
そして彼の横にはもう1人、笑顔を浮かべるスタッフの姿が。ヌクモでは珈琲に精通したスタッフが焙煎の工程を手がけており、クオリティーの高い味を提供できています。
彼にとってのWin-Winとは、親子だけではありませんでした。「得意分野を活かせる施設だと思うので、どんどん表現してほしい。得意なことで喜んでもらえてるスタッフを見ると、こちらまで嬉しくなる」
とても幸せな三角関係を目にすることが出来ました。
松井さん流 「理想の教育」とは?

教育者でありながら「教えているという感覚は無い」と語る松井さん。楽しく学ぶことに重きを置く彼の教育には、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
松井さんからたくさんのお話を聞くなかで、「"デジタル”と“自然”の融合」という言葉を口にする場面が何度もありました。
楽しく学びやすいのはデジタルを手段とした教育。とはいえ、自然から学ぶことの重要性には敵わない。松井さんが目指す理想の形は、それらのいいとこ取りをすることだといいます。
近年教育の世界ではデジタルとアナログの二元論が囁かれるほど、どちらかを選ばなくてはいけないという風潮があるといいます。しかし、それすらも彼から言わせてみれば見当違いだとのこと。
例えば大自然のなかでドローンを飛ばしてかくれんぼ。昔ながらの遊びであっても、そこにデジタルの要素を一振りすることでまた別の視点が楽しめる。
魅力的な環境を提供すれば自ら子どもは考える。
「あくまで必要最低限のサポートをすることが大人の役目だ」と松井さんは力を込めます。
実際にこうした取り組みが実を結び、今では生徒のほとんどが自らチャレンジする能動型に変化したそう。
「もっと教育現場を感じたい」 ゴールは?

保育教諭からキャリアをスタートさせた松井さん。教育現場に長く、深く携わった彼にもまだまだ悩みはありました。
彼にとってのゴールは、"より良い教育を求める"という本質的な部分にあります。それゆえに「なんでこうやらないの?」と現場教育に対する疑問も尽きません。
とは言うものの、小学生以上の年齢を現場教育で体感できておらず、実情をまだまだ理解しきれていないのではないかという葛藤も。
「今後はなにをしたいですか?」
私が最後の質問を投げかけると、迷いなく彼はこう言いました。
「もっと教育現場を感じて、現場の先生と革命を起こせたら」
教育に対してまっすぐな男の眼差しが、力強くこちらに向けられていました。
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